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イッカクの捻れ [生物]

イッカクの牙は、基本的には左の歯が左巻きに捻れながら伸びたものである。希に左右の歯が共に伸びて“ニカク”になる奇形があるが、この場合左右とも左巻きに捻れる。

左の歯だけが伸びる正常なイッカクはつまり左右非対称なわけだが、一見して左右対称になった異常なイッカクも、歯の捻れる方向は左右非対称になる。なぜ、歯の伸びが左右対称になった“ニカク”の右の歯の巻く方向は、左右対象な右巻きの捻れにならないのだろうか。

形を読む―生物の形態をめぐって

形を読む―生物の形態をめぐって

  • 作者: 養老 孟司
  • 出版社/メーカー: 培風館
  • 発売日: 2004/02
  • メディア: 単行本

これに対して、養老孟司の「形を読む」には力学的な説明を与えた説が紹介されている。体をくねらせて泳ぐ際に、体軸を中心に生じる回転モーメントの反作用として歯の付け根に捻れる力が働くため、牙は決まった方向に捻れながら伸びてゆくというのが、その大凡の話である。

養老孟司は、この説がどの程度妥当かは分からないものの

トムソンの説明は、左右の牙で、ラセンが同じ方向に巻く理由を説明する。しかし、もっと一般的に、マッコウのようなクジラ類にもみられる、頭部の非対称性の起源を示唆する。

ことから、この力学的な説明はかなり有力な説なのではないかと述べている。

毎度のように原著にあたっていないので、毎度のように下手なことは言えないのだが、個人的には何かいまいちピンとこなかった(はっきり言えば眉唾に感じた)。
じゃあなぜ競泳選手の体は捻れていないのか、というのはさておき、前々回に話題を出したSchizodelphisの頭蓋を見て、改めて引っかかりを感じた。細部までは見えないためかなり荒っぽい印象だが、少なくともパッと見たところこれといった非対称性は見えない。吻が長いにもかかわらず、なぜイッカクのような非対称性が(少なくとも派手には)生じないのだろう。無論、吻そのものが捻れていたら餌を食えなくなってしまうだろうが、例えば、吻の付け根に捻れに抗するような構造が生じるというようなことはないのだろうか(もちろん、骨内部に捻れに抗する骨稜が云々ということがあるのかもしれないが)。
さらに、前回に話題を出したオガワコマッコウの頭蓋を見て、いよいよ引っかかりが強くなった。頭蓋全体がかなり寸詰まりで、イッカクのような突起もないにもかかわらず、かなり強い捻れがある。原著を読んでいないうえにちゃんと検証もしていないのでこのあたりからかなり危険な話になってくるが、直感的には、これは回転モーメント云々という話とは別の説明が必要なのではないか、という雰囲気がそこはかとなく漂ってくる。


<2010年にいまさら追記> 知恵袋系のサイトでイッカクの牙についてこのページがリンクされているらしい。個人ブログを出典にする感覚はおよそ理解できない(情報の妥当性について何の保証もない-しかも「基本的に非科学」と明記しているにも関わらず)し、そんな程度のことは「調べる」とは言わない。何かを分かったような気分になって満足感を得たいのか?よく分からないけれど。

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